「森の生活」ヘンリー・D・ソロー

森の生活 (講談社学術文庫)

森の生活 (講談社学術文庫)

美しい池のある森に、自給自足で2年強生活した記録である。アメリカ版徒然草といったところだろう。


農民たちが、あくせく働かないといけないのは、必要以上にモノを持ち、快楽を得ようとするからだと言う。たくさん働くために、たくさん食べないとならなくなり、その食糧代を得るために、またたくさん働くという、悪循環に陥っていると言う。以下の文章は、とても辛辣である一方、そうかもとも思う。

人間が家畜の飼主ではなくて、むしろ家畜が人間の飼主であり、人間より遥かに自由な存在だ


静かな環境のなかで、自然を見つめ、思索を深めていく。「今」「この瞬間」の価値がものすごく高くなっている。以下のような味わい深い文章が、あふれている。

こうしたすべての時代と場所は今まさにここの存在する。神自身ですら、その極致の姿に達するのは現在のこの瞬間においてであり、移り変っていくあらゆる時代において、これほど神聖な姿になることは決してないだろう。


ならば、永遠にこういう生活を続ければよいかと言うと、やはり「森の生活」を去る時が来る。以下のような文章があるが、要するに飽きたということだろう。

森の生活のためにのみ時間を割くことは出来なかった。注目すべきことは、どのようにして人は知らず識らずのうちに、ある決まった生活にはまり込んで、自分自身の慣れ親しんだやり方を踏襲するか、ということである。私が森に来て、まだ一週間もたたないというのに、私の足が玄関から池の端までの小道を作ってしまった。