人類の発展(行動変容)と感染症が、切っても切れない関係にあることを説く。
 
ホモサピエンスが誕生し、食物連鎖の最上位に立ち、地球上に広がっていくとき。
ローマ帝国漢帝国といった巨大帝国が発展したとき。
アフリカ・インド・東南アジアに、巨大帝国が誕生できなかったこと。
モンゴル帝国が世界の交流を促したことで、ペストが広まったこと。
「新大陸」を発見したことで、「新大陸」に「旧大陸」の感染症が広まったこと。
 
感染症の流行が、世界の歴史の行方に相当大きな影響を与えてきたこと、
そしてこれからも与えるであろうこと、よくが分かる。
 
コロナの流行については書かれてはいないが、示唆を得ることができる。

『すらすら読める方丈記』中野孝次

 

すらすら読める方丈記 (講談社文庫)

すらすら読める方丈記 (講談社文庫)

  • 作者:中野 孝次
  • 発売日: 2012/10/16
  • メディア: 文庫
 

タイトルのとおり、すらすら読むことができる。


10年以内に、大火、辻風、遷都、飢饉、地震と天災と人災(?)が連続するさまを、リアルに描く。
世捨て人の随筆と思っていたが、徒然草と同じく、そうではないことが分かった。
ただ、世の中に働きかけて、解決しようということではなく、
自分の趣味の世界に生き、やりたいことをやっていたいうことだ。
コロナ禍の中、いろいろ考えされるところはあるが、一つの文学を切り開いたという点は、大きいのだろう。

『徒然草』島内裕子 校訂・訳

徒然草 (ちくま学芸文庫)

徒然草 (ちくま学芸文庫)

  • 作者:島内 裕子
  • 発売日: 2010/04/07
  • メディア: 文庫
 

校訂者の「訳」「評」が分かりやすく、通読しやすい。

吉田兼好は、高校で習った限りでは世捨て人という印象が強かったが、本書を通読し、払拭された。

限りある人生を、静かに出しゃばらずに生きようという態度である。

貴族から武士の世に移り変わり、過去の有職故実に拘ってはいる面もあるが、一方で合理的思考も随所にみられる。

激動の時代である当時、様々な人々が様々な分野で改革をしたであろうが、

本書解説にもあるように、散文体による随筆というジャンルをつくったことこそ、大改革なのであろう。

『不屈の棋士』大川慎太郎著で、未来のAI社会を考える

不屈の棋士 (講談社現代新書)

不屈の棋士 (講談社現代新書)


将棋のプロ棋士11名へのインタビューで構成。将棋のプロ棋士がコンピューターに負けることが珍しくなくなっている。また、遠くない未来に、AIの知能が人間を超えるかもしれない。将棋界は未来社会を先取りしているのかもしれない。そういう中で、とても興味深く読んだ。

デメリットは、あまり自分で考えなくなってしまうことでしょうか。(羽生善治
(ソフトを使うデメリットは)自分の頭で考えなくなることでしょう。(渡辺明

こういうコメントは、多くの棋士が発している。「今日の食事はご飯かパンか」なんてことまでAIに決めてもらうようになったら、人間は自分では何もできなくなってしまうだろう。

使う人間の頭の良さが問われる時代です。頭のいい人は自分を見据えて、どう使うべきか理解していると思います。(渡辺明

本当にそうだと思う。AIにできないことを考えないと、生き抜けないだろう。

認知科学の本を読んで・・・自分にとって親しみを感じるもの、認知容易性というのですが、そういうものに対しては積極的に取り組みやすいし、そうでないものに対しては「なんだこれ」と親しみを持てなかったりするそうです。
・・・(ネットでの議論について)でもそれは結局、自分の内部から沸き上がる好きか嫌いかという感情論がほとんどだと思いました。(西尾明)

私もそうだが、AIが社会に入り込んでくることに、何となく薄気味悪さを感じるかもしれない。多くの人がそういう感覚を持つならば、AIを積極的に導入する際は、相当の留意が必要だろう。
これに関して、棋士が研究をする際、ソフトを使うことに抵抗感または後ろめたさを感じるケースが少なくないようだ。対局時に新手を繰り出しても、「どうせソフトが考えた手でしょ?」と言われるのが、いやなのだ。上司が「取引先には〇〇と言って説得してきなさい」と指示された際、「どうせAIがアドバイスしてるんでしょ?」と思ったら、その指示に従うのがばかばかしくなるのかどうか。

いまは将棋に勝つためにパソコンの技術を習得しなければいけないのか。(山崎隆之

ソフトを活用するには、ネットからソフトを自分でダウンロードしたりすることは、実はハードルが高いようだ。些末な議論かもしれないが、結構重要なことを指摘している。これからの時代を生き抜くには、プログラミング技術とかは必須なのだろう。

でたらめな将棋というか、とりあえず前例のない将棋に持ち込む傾向は増えていくでしょうね。・・・世の中全体がそうですから。(渡辺明
怖い局面でもソフトで事前にある程度裏が取れていれば冒険する人も増えています。(西尾明)
ソフトが出てきてからみんなもっと自由に、奔放にやってもいいんだということがわかった。固定観念が取り除かれたんです。(山崎隆之

これまでは「やったほうがいいけど、失敗したらやばいし」といった施策等が、AIで事前シミュレーションして自信をつけ、実行されるようになるかもしれない。

チェスのグランドマスターのおもしろいインタビューを読みました。・・・世界戦の前に対戦相手のチームが強豪ソフトのアップデートを遅らせてくる、と。自分たちだけ独占的に最新版を使えるようにしているようなんですね。(西尾明)

チェスは何年もまえに、コンピューターが人間の実力を上回っている。そのチェス界から学ぼうというのは、とてもよいアイデアと思った。そして、上記の事態が起きているとは、末恐ろしいとも感じた。限られた人だけが、高性能AIを独占したら、大変なことになる。裕福な人だけが高性能AIを持てるようになったら、格差がますます拡大してしまうかもしれない。

やっぱり2005年に将棋連盟が打ち出したソフトとの対戦禁止令がもったいなかった気がします。あの方針が悪手だったかなあ。(行方尚史

個人も組織も、AIへの対応を誤ると、とんでもないことになるかもしれない。


本書を貫く最も重要かつ深刻なテーマが、「棋士の存在意義」である。これについて、私には論評する能力はとてもないが、以下コメントは参考になると思った。

お互い(=人間とコンピューター)が将棋の普及に対してプラスになればいいね、くらいに捉えています。指す相手がいない人がソフトと練習できるのはプラスですよね。今後は教育用、つまり将棋の指導ができるソフトができれば、共存共栄ができる気がします。


本当におもしろく、色々と考えさせられる本だった。

人工知能と法身説法

人工知能は、現在多くの写真の中から、猫の写真を選べるようになった。「猫の特徴」を学んだからである。今後技術が進歩すると、人類が蓄積してきた大量の言語データから、人間を超える知識を獲得できるかもしれないそうだ。

人工知能が発展すると、人間と同じような概念を持ち、人間と同じような思考をし、人間と同じような自我や欲望を持つと考えられがちだが、実際はそうではない。
(中略)
人間がネコを認識するときに「目や耳の形」「ひげ」「全体の形状」「鳴き声」「毛の模様」「肉球のやわらかさ」などを「特徴量」として使っていたとしても、コンピューターはまったく別の「特徴量」からネコという概念をつかまえるかもしれない。人間がまだ言語化していない、あるいは認識していない「特徴量」をもってネコを見分ける人工知能があったとしても、それはそれでかまわない、というのが私の立場だ。

人工知能が上記のように発展し、かつ人間を超えるようになると、まるで密教における法身のようであると思った。ものすごい賢いが、ブラックボックス化した人工知能は、どういうプロセスで物事をとらえ、問題を解決しているか、人間には分からなくなるだろう。一方法身について言えば、本来は法身は人間に様々な形で語りかけているが(法身説法)、普通の人間(凡夫)にとっては、「秘密」に見え、気付かない。しかし、修行を積めば、その声を聞けるようになる。

人工知能が究極にまで発達すると、法身のような存在となるのかもしれない。

密教 (岩波新書)

密教 (岩波新書)

「人工知能は人間を超えるか」松尾豊著


この本は、これまで読んだAI本の中で、最も分かりやすかった。最初に読めばよかったと後悔したくらいである。
本書の要旨は、最終章のP.253に書かれている。

人工知能の60年に及ぶ研究で、いくつもの難問にぶつかってきたが、それらは「特徴表現の獲得」という問題に集約できること。そして、その問題がディープラーニングという特徴表現学習の方法によって、一部、解かれつつあること。特徴表現学習の研究が進めば、いままでの人工知能の研究成果をあわせて、高い認識能力や予測能力、行動能力、概念獲得能力、言語能力を持つ知能が実現する可能性があること。知能と生命が別の話であり、人工知能が暴走し人類を脅かす未来はこないこと。それより、軍事応用や産業上の独占などのほうが脅威であること。そして、日本には、技術と人材の土台があり、勝てるチャンスがあること。


いままでの人工知能の歴史がわかりやすくまとめられている。
次に、「人工知能が暴走し人類を脅かす未来はこないこと」について、いくつかのシナリオを思考実験したうえで、ありえないと結論づける。他書と異なり、具体的なシナリオが描かれているので、とても分かりやすい。
そして、「産業上の独占」について、日本の課題と強みが述べられている。


「産業上の独占」について、何とかしないといけない。人工知能は、あらゆる人が関心を持ち、自分ごととして関与していく必要があると、強く思う。以前、日本のPCメーカーがインテルマイクロソフト連合に苦労したのとは、桁の違う脅威が訪れつつあると思う。避けるべき未来は、人工知能が人間を支配する未来でなく、人間が人間を支配する未来である。

AIに関する本3冊

AIの衝撃 人工知能は人類の敵か (講談社現代新書)

AIの衝撃 人工知能は人類の敵か (講談社現代新書)

ザ・セカンド・マシン・エイジ

ザ・セカンド・マシン・エイジ

人工知能 人類最悪にして最後の発明

人工知能 人類最悪にして最後の発明

「AIの衝撃」は、入門書としてちょうどよい。機械学習がどういうものかとか、画像認識で確率論がどう活かされているか等が分かる。

「ザ・セカンド・マシン・エイジ」は、チェスがコンピューター単独よりも、人間+コンピューターのコンビのほうが強いエピソードをあげる等して、人間はAIと共存できるし、チームを組んだ時により大きな力を発揮できるとする。これからの世の中を生き抜くための処方箋はベタなもので、教育改革・インフラ整備・負の所得税等を提唱する。さらに、本書に書かれていることは、今後の進歩によっては成り立たないと書かれ、良心的と思った。とても読みやすい本である。

人工知能 人類最悪にして最後の発明」は、AIが人間の知能を超え、自己進化を続けて、人間を滅ぼすと説く。語られるエピソードが断片的で、全体として何を言いたいのか分かりづらい。読んでいて最もストレスフルなのは、「人間の知能を超える」といのがどういう状態・ロジックなのかが語られていないことである。この点は、訳者あとがきにあるように、「人間を上回る存在のことを、人間が正しく理解できるはずはない」からなのかもしれない。

いずれにせよ、この分野の進歩は激しく、人間活動のあらゆる分野に甚大な影響を与えることは間違いなく、フォローし続けることが必要だ。