家事の有償労働化について


本書は、育児・介護等の福祉について、横(各国間比較)・縦(歴史的経緯)から、現在の日本の状況を説いていく。

まず「横」について、各国のあり方とデメリットを比較する。自由主義アメリカは、市場の役割を重視する。徹底した雇用差別の禁止や労働市場の柔軟化を実施している。パワフルカップルとシングルマザーに代表される、世帯間格差が問題とする。社会民主主義スウェーデンは、政府の役割を重視する。政府がケアワークを提供し、多くの女性がケアワーカーとして政府に雇用される。結果として、「男性は民間、女性は政府」という性別職域分離が起きていることが問題でとする。保守主義のドイツは、労働力縮小に走り、早期引退制度を導入した。「女性は家庭労働」という性別分業が固定化したことが問題とする。そして日本は、家族と企業という2つの民間部門に福祉を任せたという。これは男性が稼ぎ手となるモデルであり、既に前提が崩壊しつつあるとする。労働力が減少する日本は、ドイツの道は取りえないとする。
次に「縦」について。農業社会では、男女とも働いていたが、工業化社会となると、男性は工場・オフィスで働き、女性は家庭を守るという図式ができた。しかし、ポスト工業化社会となり、再び男女とも働くようになった。その過程で、女性が働くようになって、当初は出生率が落ちるが、次第に出生率が上がり始めるようになり、このタイミングは国によって異なるという。
本書は、「こうすべき」という施策提案があまりないが、強く主張していることが2点あると感じた。1点目は、「福祉の外部化が家族破壊を招くという主張は、全くの杞憂である」ということ。2点目は、「働いてお金を稼ぐことは、利他的な行為である」ということである。


横縦の分析は、ロジカルで非常に分かりやすく、また興味深い。複眼的に考え、施策を進めなければならないことが、よく分かる。また、福祉の外部化について、日本が貨幣経済であり続けることを認めるならば、家事だけが無償労働であるのは、無理があると、私は思う。一方で、「無限定的な働き方や長時間労働の慣習を是正することが最優先」と言うが、横縦の分析なく語られており、それ以外の分野がきめ細かく論じられているだけに、残念であった。