「荘子 内篇」 福永光司/興膳宏訳

荘子 内篇 (講談社学術文庫)

荘子 内篇 (講談社学術文庫)

100分DE名著で強い印象を受けていたことと相まって、これまで読んできた諸子百家の本の中で、本書が最も強烈だった。
論語」は、敢えて言えば、「君主になったら読む本」というマニュアル的な匂いがする。「老子」ですら、世の中を上手く渡っていこう、上手く国を治めようとする点で、同じ匂いがする。しかし、本書は、全くそういう匂いがせず、完全な哲学書だと思う。

また、本書は訳と解説もすばらしい。福永氏の解説だけでも読み応えがある。「生きたる混沌を生きたる混沌として愛していくことが荘子の解脱であった」とは、何とも味わい深い文章ではなかろうか。

気に入った文章を選ぶのは難しいが、敢えて以下を引用する。このような心境になれば、悩みは全くなくなるだろうが、相当な修行が必要だろう。

名声の権化となるな、策謀の宝庫となるな、事業の責任者となるな、知恵の主催者となるな。窮まりない道とどこまでも一体化して、形のない世界に遊び、天から受けたものを十分に全うして、それ以上に得ようと思うな。要は己れを虚しくするに尽きるのだ。至人の心のはたらきは、さながら鏡のようで、去る者は去るにまかせ、来るものは来るにまかせ、すべてに対応しながら、その跡をとどめない。だからあらゆる存在によく対処して傷つくことがない。