「経済学の宇宙」岩井克人著 聞き手=前田裕之


経済学の宇宙

経済学の宇宙


本書は、岩井氏の自伝であり、岩井氏のこれまでの諸論文(不均衡動学、資本主義論、貨幣論、法人論、信任論等)の解説であり、岩井氏のこれまでの思索内容を記したものである。一粒で三度おいしい。諸論文の解説は、色々と考えさせられるものばかりだった。


本書で最も感銘を受けたのは、「著者が」考えたというよりも、真実を見極めようという著者の真摯な態度である。これは、学者のみならず、あらゆる人に必要なことだと思う。それに関する文章をいくつか引用する。

解かなければならない問題は、個々の学者を超えたところに存在し、それを見いだすことが最も大切なことです。学者とは、解かなければならない学問に従属している存在なのです。

夏目漱石夢十夜を引用して)(運慶が仁王像を彫る様子について)あの通り眉や鼻が木の中に埋っているので、ノミとツチの力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだから決して間違うはずはない・・・自分(=岩井氏)が運慶にでもなったような不思議な感覚に襲われました。

(本書作成、及びその前提となるインタビューを受けた)最大の理由は、インタビューの主題は私の人生ではなく、私の学問であるという前田君の言葉でした。

著者は、自分の論文が学術雑誌に掲載されないことを、大変気にしているが、気にしなくてもいいのになと、本書の途中までは感じていた。しかし、以下文章を読んで、著者の真意が分かった。

学術研究とは、究極的な公共財です。どのように重要な研究をしても、それが自己満足のための自己消費に終わってしまったら、無意味です。それだからこそ、私は迷いながらもいくつかの研究は英語にして発表してきているのです。

元気をもらった一冊だった。