江戸時代の学問の興隆
- 作者: 大津透,桜井英治,藤井讓治,吉田裕,李成市
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2014/11/22
- メディア: 単行本
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本書第7章は、前田勉氏執筆による「儒学・国学・洋学」である。江戸時代は、本来戦闘者である武士が支配する社会で、学問は社会的地位を保証するものではないにも関わらず、儒学だけでなく、国学・洋学が学ばれたと言う。学問を志す者の読書法に、以下のような特徴を持つ「会読」があったと言う。読書会のようなものだ。
・複数の人々が定期的に集まって一つの本を討論し合いながら読む読書方法
・会読する者たちは「社中」を結んだ。期日を定め、一定の場所で行うことを規則に定め、複数の人々が読書を目的として自発的集会した
・志を同じくする者たちが、あえて難しい書物を取り上げて討論しながら読み合う、知的好奇心あふれる空間
・(初期には)凡庸な生を拒否して覚醒した諸個人が対等に討論して「才智」を競い合い、自己の個性と実力を発揮する場であった。(後半には)「道理」を討論し合う場は「才智」を競い合う場ではなく、自己の偏見を克服する道徳的な修養の場、「心術錬磨の工夫」の場だとされた
そして、明治に至り、「学問の場が、民選議院の設立、徂徠流にいえば、国家社会の新たな制度の作為を目指す自由民権運動につながっていった」と述べる。一方で、国学が「不条理な世界に生きる個人の不安な精神を補填するイデオロギー的機能を持ち続けることになる」とも述べる。
明治維新によって、日本が一気に飛躍するためには、江戸時代に様々な準備がなされていたと思うが、学問や読書もそうだったということだ。江戸時代における知的鍛練の集積が、明治以降の発展につながったと思う。現代も、実世界やネット上で、様々な議論がされているが、そういった切磋琢磨が、これからの新しい社会形成につながるだろう。一方で、その内容によっては、社会を間違った方向に誘導しかねないことも、心しておく必要があるだろう。