「育休世代のジレンマ」中野円佳著

「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか? (光文社新書)

「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか? (光文社新書)

学校で優秀な成績を修め、優良企業に入社した女性たちが、ジレンマを抱える実情をあぶりだす。

・意識の上で、女性の「指定席」ではプライドが許さない、もっと男性や子どもを産んでいない女性と同等に戦っていきたいと思う人ほど、指定席に押し込められるくらいなら、いっそ競争から降りてしまえ、と従来女性がたどりがちだった「退出」を選びやすい。
・逆に「制度を使える間は在籍するつもり」「マミートラック的な部署でもいい」など、ジェンダー秩序に従ったり、利用しようとしたりと、もともと競争意識があまりないか、競争意識を持たないように意識を切り替えているケースの方が、企業に残りやすい。

本書の主張は、この2行に尽きると思う。大変な家事・育児を、夫にも分担してほしいと強く思う一方、両立負担は、実は決定的な要因ではなく、「それほどまでして、続ける仕事ではない」ということの方が、決定的と言う。つまり、やりがいの問題である。

誤解を恐れずに言えば、家事・育児負担という、大変重要な要素を除けば、男性も全く同じ構造だと思う。順調に昇進する人。頑張りすぎて、心身に不調をきたし、ドロップアウトする人。「こころの定年」を迎えて、会社にぶらさがるだけになる人。男性であれば、40代以降に現れていた課題が、出産時期に現れるようになったということだろう。日本型雇用/メンバーシップ型を、微修正しつつ維持するのか、抜本的に見直すのかが、問われている。

本書末尾の「おわりに」「新書を出すにあたって」「謝辞」は、本文と打って変わって、著者のほとぼしる思いが込められているようで、思わず涙が出そうになった。