いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる / 海老原嗣夫氏

本書の内容をあえてまとめると、以下のとおりであろう。

1.日本型雇用と欧米型雇用は、それぞれメリット・デメリットがある。
 日本型は、
  ○若者未経験者を登用/育成するのが容易。
  ○指揮命令、モチベーション維持が容易。
  ×長時間労働。そのため、育児女性に不利。
  ×熟年層が高給で実務能力が低い。そのため退職圧力があり、転職市場も育たない。
 欧米型は、その反対である。
  ・熟年層も、熟練しておりかつ賃金が低い。
    ○そのため、いつまでも働ける。 ×若年層の雇用を圧迫。
  ○一生ヒラ社員。残業が少なく、女性が長期勤務可。男性も育児参加可。
2.共働き世帯が家事育児を夫婦で分担する、老親の介護が必要といった情勢では、仕事一辺倒でない新しい労働モデルの確立が必要。ホワイトカラーエグゼンプションは、そのきっかけとできる。
3.具体的には、以下のとおり。
  ・日本型/欧米型雇用それぞれのよさを活かす。それを接ぎ木するために、ホワイトカラーエグゼンプションを使う。
  ・若者は日本型雇用。登用の容易さを活かし、欧米のように若者が高失業となることを防ぐ。
  ・一定の年齢で(?)、ホワイトカラーエグゼンプションになり、職務限定とする。
  ・その後、さらに上の幹部になる人と、ホワイトカラーエグゼンプションに留まる人に分かれる。
   後者の人は、給料は上がらなくなるが、職務も限定されているので、仕事に慣れれば早く帰れるようになる。

日本型雇用がここまで根付いていたのは、文化的理由とともに、経済合理性もあった訳で、単純に、「日本型はだめで欧米型とすべき」としていない点に、共感を持てる。地に足がついた議論だと思う。

一方で、あえて言えば、2点気になった。

1点目は、会社内での業務分担方法について。若手ヒラ社員と幹部が職務無限定で、ホワイトカラーエグゼンプションが職務限定と理解した。会社内に職務無限定の者と限定の者が混在している中、新しい仕事・担当者が不明瞭な仕事をどうやって割り当てるのかが、分からなかった。欧米型は、とりこぼれた仕事は幹部が拾うのだろうが、本書案は、ホワイトカラーエグゼンプションという真ん中にいる人たちが職務限定なので、どうやってコントロールするのかが分からなかった。

2点目は、企業がホワイトカラーエグゼンプションを導入しようとする背景について。「管理職になれない熟年ヒラ社員でも高給になるのを何とかしたい」のが本音と理解しているようだ。しかし違うのではないか。日本型雇用のメリットの一つである、若者の育成をするためではないか。本書でも「(新入社員が)仕事がちょっとできるようになると、楽などさせてもらえず、すぐ、次の仕事を任される」「年功常識にしたがい、実務を減らし、難易度の高い企画ワークや指導・管理をやらせる」とある。要するに、全員がストレッチした業務が与えられ、やり遂げる経験をすることで、育っていくということだ。一方、自分の能力を上回るので、簡単にこなせるはずもなく、試行錯誤・失敗を繰り返しながら、何とかやっていくことになるので、長時間労働になる。こういうやり方を続けていけるように、ホワイトカラーエグゼンプションを導入したいと考えているのではないか。ということで、私は、ホワイトカラーエグゼンプションは、若手育成のためという意味で、究極の日本型雇用維持・延命策と考える。

いずれにしても、ホワイトカラーエグゼンプション残業代ゼロ法案と理解するのは(ついでながら女性活躍のために管理職比率を法定化しようすることも)、底の浅い考え方というのは、そのとおりである。日本の雇用の在り方をきっちり考えていくことが必要だ。