『陸軍省軍務局と日米開戦』保阪正康著

東条内閣成立から対米英開戦に至る2ヵ月間、陸軍の政治的中枢である軍務局軍務課の石井秋穂らが中心となって和平への道を探り、そして挫折するまでを描く迫真のドキュメントである。東条は組閣にあたり天皇から「広く深く国策を再検討せよ」と指示され、律儀に守ろうとする。石井は、政府大本営連絡会議の資料原案作成を指示されるが、あからさまに和平を示す文言を表に出す訳にはいかないので、遠回しな文言を織り込むといった涙ぐましい努力をする。しかし連絡会議の出席者たちは「国策決定の機関に列しているとの自覚はもっていたが、その実、自らの集団の利害の代弁者としての訓練しかもっていなかった」のだ。いかにも官僚体質であるが、まるで私の勤めている会社のようだと思い、笑い飛ばすことはとてもできなかった。石井たちの努力空しく、結局流されるように開戦へと突き進んでしまった。著者はあとがきで「あの段階での開戦自体は歴史的には不可避であったと私には思えてならない」と述べるが、本書を読む限り、残念ながら認めざるをえない。とは言え、私はもっと研鑽を積み、どうすればこの戦争を避けられたのか考えていきたいと思った。