『柔道ストラテジー』ディビッド・ヨフィー、メアリー・クワック著

柔道ストラテジー

柔道ストラテジー

「柔道ストラテジー」と言えば、その名からおおよそ見当がつくとおり、本書には新規参入企業が大企業を倒す方法が書かれている。「ムーブメント」「バランス」「レバレッジ」という3つのテクニックから成り立つという。本書では様々な企業の成功例・失敗例が紹介されている。例えばおむつ業界の新興企業ドライパーズ社は、市場に君臨するP&G社がクーポン券をばらまき、ライバルを叩き潰そうという作戦に直面したが、P&G社のクーポン券をドライパーズ社の商品にも使えるようにするという独創的対応をしたことにより、売り上げを急増させた。これは「バランス」のテクニックのうち、「引かれたら押す、すなわち競合相手の動きを逆手にとって、自分の強みにしてしまう方法を見つける」というものである。逆にネットスケープコミュニケーション社は、「ナビゲーターを、マイクロソフトの力の源であるウィンドウズをしのぐ可能性のある代替プラットフォームとして位置づけ、マイクロソフトの急所を攻撃してしまった。」そのため、一時90%近いシェアを確保したが、その座をインターネット・エクスプローラーに明け渡してしまった。また力のある企業は「相撲ストラテジー」によって勝つことができるという。
「柔道」「相撲」といった、日本人にとってなじみの深いスポーツによって表現されており、とても理解しやすい。一方、後付けであれば何とでも言えるのではないかという気もする(どの経営書もそうだろうが)。また、新興航空会社につき、ある社については低価格方式が勝因としつつ、別の社については低価格方式が敗因としており、一貫しない(もちろん、他の経営環境の違いもあったのだろうが)。精緻な理論としてはクエスチョンマークがつくが、読み物として(笑えるという点も含め)おもしろいこと、また新興企業にはチャンスが、大企業には足元をすくわれる危険があることを気付かせてくれるという点で、価値のある本だと言える。