『精神と物質』立花隆・利根川進著 文春文庫

精神と物質
立花 隆著 / 利根川 進著
 一言感想を言うと、「無茶苦茶おもしろい本」である。
 利根川氏が大学を卒業し、渡米(のちにスイスに渡る)し大学・研究所を渡り歩いて研究を進めつつ、ノーベル生理学医学賞を受賞することになる「抗体の多様性生成の遺伝学的原理の解明」を成し遂げ、その後脳にも関心を広げていく経緯が記されている。本書は立花氏が利根川氏にインタビューしたものをまとめたものであり、対談形式になっているが、読者のため随所に立花氏による解説が付されている。高校生物の知識があれば理解可能なレベルになっているとのことだが、実際高校生物レベルの私でも理解できた。ワトソン・クリックの二重らせんから利根川氏の発見、さらなる研究の内容について分かりやすく書かれている。また多くの学者は大発見をできずに終わること、当然だが競争が熾烈であること、有名研究所には最新情報が集まり、そこに属すると大変有利であること、日本の大学は研究に向かないことなども語られ、大変興味深い。一気に最後まで読み通してしまった。
 本書は88年〜90年に文藝春秋で連載されていたのをまとめたものであり、日進月歩(秒進分歩か?)の科学の知識を得るには本来古すぎるのかもしれないが、科学研究の状況を臨場感もって伝えていると思われ、好著であると思う。