『ソ連が満洲に侵攻した夏』半藤一利著/『コーランを知っていますか
半藤 一利著
著者は、「国際法に無知、というより無視、国際情勢にたいする理解の浅薄さ、先見性や想像力の欠如、外交交渉のつたなさ、それが今日のわれわれにそのままつながっているのではないかと、それを危惧する」と、怒りをぶつけるとともに、現在も日本は同じ過ちを繰り返していないかと警告を発する。しかし私自身はそれにもまして、ソ連の卑劣な行為に激しい怒りを覚えた。「古代ならいざ知らず、世界戦史上、満洲でソ連が行ったようなことをした戦勝国はない。連合諸国もまさかそこまでは・・・と予測のつかないことであった。」と述べられている。
戦後数十年が経過し、やっとこういう本が読めるようになったということなのだろうか。日本人として必読の書であると思う。
阿刀田 高著
これまでの解読本は、主なトピックを取り上げ、著者得意のユーモアで料理し、読者の興味をそそるというスタイルであった。ところが今回は趣を異にする。「アラーは血沸き肉躍るストーリーの開陳にはあまり関心がないらしく、出来事の断片を語っている印象が拭いきれない」とあるように、コーランの中にある話のストーリーはそっけないもののようである。またこれも著者が繰り返し述べているように、「コーランが詩的であり、音楽であり、翻訳では会得できない部分を相当に含んでいる」ため、日本語でその魅力をあますことなく伝えるのは、かなり難しいのであろう。著者も今回は苦心したことがうかがえるが、イスラムの歴史、旧約聖書との対比、サウジアラビア旅行記等を織り込み、全編通じ、知的好奇心が刺激される内容となっている。
あえて2点苦言を呈すると、まず雑誌での連載を文庫にしたからなのか、やたらと同じ内容の記述が繰り返され、くどいと感じること、もう1点は何点か誤字があったことである。しかしコーランという一般の日本人にはなじみがないものを、親しみをもてるようにするという試みは成功していると思う。