『昭和史七つの謎』保坂正康著 講談社文庫

昭和史七つの謎
保阪 正康〔著〕
膨大な調査量と豊かな洞察力に基づき、書名どおり昭和史の7つの謎を解き明かしていく。ここではそのうち、「第5話 なぜ陸軍の軍人だけが、東京裁判で絞首刑になったか?」を取り上げたい。要約を試みる。東京裁判は復讐であり、人身御供をつくらねばならないが、天皇の責任は問わないことにしている。すると、大本営の責任は問えない。一方、海軍は三国同盟締結に消極的であった。結局陸軍軍人が犠牲となった。天皇の責任が問われる可能性が出てきたときに、かの検事団長キーナンが慌てる様子が描かれており、興味深かった。結局茶番だったわけである。
ところで、「なぜに東京裁判史観といわなければ気がすまないのだろうという感がしてくるほど拙劣な論理を振り回していると思う」と「東京裁判史観」を一刀両断にしているが、その根拠が分からず、理解に苦しんだ。しかし、この点については著者の他の書を読み進めれば分かるだろうと、自分を納得させた。
東京裁判については、勝者の判断を敗者に押し付けているとか、事後法であるといったかなり正当で有力な批判がある。しかし本書は、悪く言えば開き直って、よく言えば大所高所から、超越したところで論を展開していると言えるだろう。東京裁判に関する記述を含め、7つの話すべてについて、昭和史に関する新たな視座を提供してくれると思う。