『瀬島龍三 参謀の昭和史』保坂正康著 文春文庫

瀬島竜三
保阪 正康著
瀬島龍三氏は、大本営参謀、シベリア抑留生活を経て、伊藤忠の会長まで昇りつめ、その後第2臨調の委員を務めた。本書には、各立場・場面ごとのエピソード、及び諸資料証言を駆使しての新事実(あるいは著者の推理)が数多く描かれている。敗戦時にソ連と停戦協定を結んだ際、日本兵たちがシベリアに連行されることを認めた疑いがあること。大本営参謀時代、「台湾沖航空戦に日本軍が大勝したとの報は誤り」と警告する電報を握りつぶしたため、レイテ決戦の大敗を招いたという疑いがあること。伊藤忠時代、航空機納入に関して防衛庁との黒い関係があること、等が述べられている。一方、ネガティブ面だけ取り上げているだけではない。スパイ説については明確に否定している。著者自身述べているとおり、瀬島氏は「歴史的事実を正直に正確に語らない」こともあり、上記のことが事実かどうかは、今後の歴史の審判を待つしかないだろう。しかし、「瀬島氏の存在をより深く、理解していけば、昭和史そのものを知ることができる」と著者は述べているが、敗戦から中曽根行革までの昭和史を駆け抜けた瀬島氏は、「昭和史を知る」題材としてまさに適任であると思った。