『真珠湾の日』半藤一利著 文春文庫

〈真珠湾〉の日
半藤 一利著
真珠湾攻撃に至る、日米両国の軍・政府内部や民間人たちの約2週間にわたる動向を、丹念に綴ったドキュメンタリーである。
英米戦争は、国民が軍に抑圧された状態で起こされたという立場をとらない。国民の多くは、開戦のニュースに接し、むしろ爽快感を味わっていたと言う。「対米英戦争開戦は、明らかにそれまでの中国との鬱陶しい戦いとは違ったものとして、多くの日本人には感じられたのである。・・・日本人の心に闘志と緊張感とをうんだのである。」と言い、数多くの文筆家が同様の記述をしていることを紹介する。
かたや、ルーズベルト陰謀説にも与しない。「この程度の文書(=マッカラムの文書)によって、日本が南進政策を決定し、戦争に引きずり込まれたと結論づけるのは、いささか甘すぎる」と断ずる。確かにルーズベルトは、日本に先制攻撃をさせる意図で、東南アジア方面に当て馬的に船舶を航行させたが、まさか日本本土からかなり距離のあるハワイに攻撃を仕掛けるとは、予想だにしていなかったと分析する。
一方で、そもそも日米両国は国力の差がありすぎるのに、開戦に至った愚かさや、開戦後に宣戦布告するという失態に至らしめた、在米大使館関係者の怠慢への怒りが切々と述べられている。
短期間に起きた出来事を、膨大な資料を整理・駆使して立体的に描きつつ、偏った考えに流されず「リアリスティックに観察」する著者の態度に敬意を表したい。