『東大生はバカになったか』立花隆著 文藝春秋

 大変エキセントリックな題名ではあるが、むしろ「知的亡国論+現代教養論」という副題の方が本書の内容を示していると思う。しかし、著者の危機感(及び出版社の商業的意図?)により、このような題名になったと推察する。
 「知的亡国」に関しては、「高校教育の水準低下、大学入試の水準切り下げ、大学でのリベラル・アーツ教育の崩壊の三者があいまって、日本の知力の総和は大幅に低下しています」といったことを述べており、深刻な事態になっていることがよく分かる。
 「現代教養」については、著者のたぐいまれな見識を反映し、非常に多岐に渡った議論が展開されているが、あえて言うならば、「単なる知識は教養ではない。そうではなくて、知る過程で身につけたもの、身につけた能力を本来的な意味での教養というべき」というポール・フルキエの言葉の引用を取り上げたい。もちろん、おさえておくべき知識についても、国際政治・経済、世界史、文化人類学、宇宙科学、生物化学・・・と尽きることがない。さらに現代的なものとして、メディア・リテラシーといったものも取り上げており、単なる骨董品としての古典を読めばよいという考えとは完全に一線を画している。
教養を身につけるべき者として、大学生を主な対象としているようだが、「企業人の教養教育」についても少し言及がある。企業人は時間がなくて難しい、という結論に至っているようで、まるで大学時代に教養を身につけないともはや時間切れと言われているようで、大変残念であった。しかし、「本人の側がまずやる気を持たない限りどうしようもない」という言葉もあったりして、やる気さえあれば何とかなるかもしれないと、三十代半ばの私としては、強引に自分を慰めた。
 とにかく、著者の深い洞察に基づく危機感がひしひしと伝わってくる。大変刺激を受けるという点では、先に私が紹介した『教養のためのブックガイド』より数段上である。学生にも社会人にもお勧めしたい一冊である。