『昭和史』半藤一利著 平凡社

昭和史
半藤 一利著
満州事変から敗戦までを語り口調で分かりやすくまとめた通史である。知り合いへの個人講座的に語ったものをまとめたという形をとっており、すこぶる分かりやすい。「昭和史のシの字も知らない私たち世代のために、手ほどき的な授業をしていただけたら、たいそう日本の明日のためになると思う」と編集者が希望したとおり、本書を読めば、昭和史の流れをおさえることができると思う。いかに日本が愚かな選択をしたか、また諸外国がエゴ丸出しの行動をしたか(そして愚かな日本がそれに翻弄されたか)がよく分かる。「とくに一市民としては、疾風怒濤の時代にあっては、現実に適応して一所懸命生きていくだけで、国家が戦争へ戦争へ坂道を転げ落ちているなんて、ほとんどの人は思ってもいなかった。これは何もあの時代にかぎらないのかもしれません。今だってそうなんじゃないか。・・・豊富すぎる情報で、われわれは日本の現在をきちんと把握している・・・とそう思っている。・・・実は何も分かっていない、何も見えていないのではないですか。」という著者の問いかけを目にすると、昭和史を学ぶのは、単なる知的好奇心からだけではいけないことを思い知らされる。
あえて苦言を呈すれば、日独伊軍事同盟締結位までは、日本国内に関する記述がほとんどで、世界の動きにあまり触れられていない。結果、ABCD包囲網や米国内の日系人差別等、歴史の流れを把握するためには欠かすことのできないはずの記述が抜け落ちている。しかし、本書の性格上やむをえないことであり、致命的な問題ではないと思う。本書の価値を落とすものではまったくない。
ぜひお勧めしたい一冊である。