『モンゴル帝国の興亡』岡田英弘著 ちくま新書

モンゴル帝国の興亡 (ちくま新書)

モンゴル帝国の興亡 (ちくま新書)

チンギス・ハーンの誕生・ユーラシア大陸のほぼ全体の制覇から、モンゴル人民革命党一党独裁の放棄までを描く大叙事詩である。本著で一貫しているテーマは「モンゴルは世界を創った」である。
「インドを創ったのが、モンゴル人のムガル帝国であり、トルコのもとになったオスマン帝国が、アナトリアのモンゴル駐屯軍が発展したものであり、ロシアが(チンギス・ハーンの息子ジョチを始祖とする)ジョチ家の白いオルドの後継者である・・・中央アジアトルコ語を話すイスラム教の国々が、やはりジョチ家の後裔である・・・モンゴル帝国は、東は韓半島・中国から、西は地中海に至るまでの、ほとんどすべての国々を生み出した」「明朝の中国は、昔の唐・宋の時代の中国ではなく、モンゴル化した中国であった。明朝の制度は、すべてがモンゴル式であった」とある。中国で麺を食べる習慣も、明朝時代に始まったとのこと。西尾幹二氏が『国民の歴史』で「世界史はモンゴル帝国から始まった」と述べているが、まさによく実感できる。
本著で残念なのは、コンパクトに色々なことを詰め込みすぎていて、私のようなモンゴル史初心者には大変読みづらいことである。チンギス・ハーンの子孫たちは、離合集散し、戦い・暗殺を繰り返した。多くの登場人物が、権謀術数をこらして、権限を握ったり、政権から追いやられたり、裏切られたりする姿を描くのはよいのだが、同じような歴史的事件が描かれているし、名前は覚えられないし、すべてを細かく読むには、大変な気力が必要だ。中公新書の「物語○○の歴史」シリーズのように、テーマを絞った本にした方が、碩学な方には不満だろうが、初心者にはとっつきやすいのではなかろうか。ただし、通史としての価値を傷つけるものではないことを強調しておきたい。