『働きすぎの時代』森岡孝二著 岩波新書

dokushonikki2005-11-09

 過重労働の背景、及び解決への処方箋をコンパクトにまとめた一冊である。特に背景に関する記述に重点を置いている。
 “背景”については、4つの点について述べている。1点目は「グローバル資本主義」、すなわち中国等の低賃金・長時間労働の国と競争していること。2点目は「情報資本主義」、すなわち情報通信技術の発達により、いつでもどこでも携帯に仕事関係の電話がかかってくるというように、仕事の時間と個人の時間の境界が曖昧になっていること。3点目は「消費資本主義」、すなわち24時間営業のコンビニや、必ず翌日配達される宅配便に代表されるように、経済活動の24時間化により、働きすぎにつながっていること。そして4点目は「フリーター資本主義」、すなわち労働分野の規制緩和により、正規労働者の絞込みが進み、結果長時間労働者が増えたという。
 一方、“処方箋”については、労働者については「年休をめいっぱい取得」「残業をできるだけせず」といったことを、法律・制度については「一日の残業上限を原則2時間にする」といったようなことを提案する。実現できればすばらしいものの、お題目として唱えられているだけで、残念ながらこのままでは実現は難しいと思われる。また「ダウンシフティング(減速生活)」として、田舎暮らしなどの例もあげられている。私自身魅力を感じる一方、皆が同じことをすれば、わが国は競争力を維持できず、中国・韓国に追い抜かれる。さらに、“背景”の3点目を読んだ読者なら容易に想像できるように、引き換えに便利な生活が失われるであろう。それでよいとするのも一つの道ではある。森永卓氏も「日本はラテン化すべし」といった意味のことをおっしゃっていた。携帯でメールなどできなくてもよいかもしれないし、電車が何十分遅れることがしばしばあって構わないかもしれない。こういったことまで深く突っ込んだ議論がなされていないのが残念だが、そこまで言うのは期待過剰というものであろう。本書については、過重労働の背景の分析について評価したいと思う。