風姿花伝

 
 言わずと知れた、能楽聖典である。もちろん、能を志す人向けの記述が多い。例えば、女・老人・鬼等の真似をするにはどうすればよいかとか、能の歴史について等である。しかし、教育・キャリアに関する記述も多々あり、味わい深い。
 7歳頃を稽古始めの年齢としたうえで、「…ふっとやり出す芸のおもむきを、干渉せずに、思のままにやらせるがよい。…あまりひどく世話をやきすぎると、子供は意気ごみがくじけて…もう能は延びなくなるものだ…。」子育ては難しい。
 「どんなわらうべき役者でも、とりどころありとみたなら、上手もこれを学ぶがよい。」誰からも学びがあるということだろう。
 「…能をあらんかぎり稽古し、工夫(ママ)を極めて後に、真の花の失せぬ所以を悟るであろう。」ひたすら精進・訓練が必要ということだろう。
 ベテランに関し、「この花の工夫のない役者は上手で通用はしても、のちのちまでも残る花はあるまい。この工夫(ママ)をしつくした上手ならよしんば能の技倆は下っても、見るべき花は残るであろう。花さえ残れば面白いところは生涯失われぬであろう。」いつまでもいきいきと活躍するため、今の時代にも通用する言葉だろう。