『方丈記』『徒然草』とZOOM
徒然草第12段では、現実世界では、自分と語り合える心の友がいないと嘆く。
第13段で、書物の世界で、心の渇きを癒す魂の会話を交わすことができ、解となっている。
しかし、方丈記の最終章は、「心、更に、答ふる事、なし」とある。
書物からでは答えは得られなかっただろう。
辛い憂き世を離れ、閑居生活を続けたら、行き詰ったということだ。
とても単純な話で、憂き世(現実生活)で、人間生活の中で、辛い経験をしながら、成果を出し教訓を得る。
孤独な閑居生活で、楽な生活をしながら、読書・思索し、考えを発酵させる。
どちらかではだめで、これを繰り返すしかないだろう。
昨今は、ZOOMを使ったサロン的なディスカッションが盛んである。
私も、読書会や、講演会の後のセッションに参加して楽しんでいる。
「ガチガチの現実」でもなく、「現実から遊離した閑居・読書生活」でもない、
真ん中の在り方である。ある程度興味関心が共通する人たちと、日常の利害関係に関係なく、双方向で議論をし、お互いを高めあうことができる。鴨長明の行き詰りを解決できるかも、と感じている。
出口治明『還暦からの底力』
楽しんで、ためになると思いながら読むことができた。
そのために、個人がやること、社会でやることがいろいろと書いてある。
よい意味で、テーマが拡散しているので、読んでいて飽きない。
どれか一つでも実践すれば、自分を高め、
世界をよりよくすることができるだろう。
「人間は何のために生きるのか」について、
「次の世代のために生きているに決まっている」ので、
「世界経営計画のサブシステムを担う」べきと説く。
人間は「世界経営計画」のなかで生きています。
これは僕の造語ですが、要するに人間は
「自分の周囲の世界を、より生きやすいように変えたい(経営したい)」
という思い(計画)を持っているということです。
人間には向上心があるので、
「ここを変えたい」という気持ちが必ずあります。
世界を少しでもよくしていく取り組みは、
まさに次の世代のための営為です。
ヴィクトール・E・フランクル『夜と霧』
客観的に、時にはユーモアすら込めて描いていることである。
読みながら思わずラインを引いた箇所を引用する。
わたしたち自身が問いの前に立っている・・・
考えこんだり言辞を弄することによってではなく、
ひとえに行動によって、適切な態度によって、正しい答えは出される。
生きるとはつまり、生きることの問いに正しく答える義務、
生きることが各人に課す課題を果たす義務、
時々刻々の要請を充たす義務を引き受けることにほかならない」
「お前がどう行動するかが、お前の人生から問われている」ということ。
強制収容所で想像を絶する経験をした心理学者だからこそ、
迫力をもって書くことのできる本である。
大変刺激を受け、楽しかった。
ほんの少し紹介すると、自分を客観的に見るとよい、という点について、
「ユーモアは自分を客観視できるきっかけ」
「近くから見ると悲劇だが、遠くから見ると喜劇」という言葉を
忘れないというようにしたいと思った。
努力か才能か
「天才モーツァルトも努力していた」という命題から、
論理的に導き出される導き出されるのは、
「努力すればモーツァルトのような天才になれる」でなく、
「努力なしにはモーツァルトのような天才にはなれない」と。
練習量の多少によってパフォーマンスの差を説明できる度合い
に関する論文も紹介している。
テレビゲーム 26%
楽器 21%
スポーツ 18%
教育 4%
知的専門職 1%以下
山中伸哉教授が何度もキャリアチェンジしたエピソードを紹介しつつ、
自分のポジショニングの重要性を説く。
米国陸軍士官学校(ウェストポイント)の
「やり抜く力=GRIT」が高いことが重要であることが分かった、と言う。
才能が結果に直結するのではない、
才能×努力によってスキルが向上し、スキル×努力によって結果を達成する、と。
自分のGRITを伸ばすための方法
(興味、練習のやりかた、目的を見出すこと、楽観的な考え方)を説き、
賢明な子育ての重要性、組織風土の重要性も説く。
実験台になった(?)学生たち、ニューヨーカー誌の漫画家、
歴史上の偉大な人物たち、様々な例が紹介されていて、説得力がある。
「子貢は、・・・孔子の偉大な完成はその先天的な素質の非凡さに
依るものだといい、宰予は、いや、後天的な自己完成への努力の方が
与って大きいのだと言う」と。
努力か才能かは、人類の永遠の課題なのであろう。
努力すること自体も才能だが、努力できるという才能は磨くことができる。
まったくの根拠もない私の意見でした(『GRIT』と同じ結論かな?)。
カミュ『ペスト』
ペスト禍で町が封鎖されるという極限状況の中で、人は本性をあらわにする。
自分の好きなことをしようとする人、
この機会に一儲けしようとする人、
何とかして町から逃げ出そうとする人・・・。
主人公のリウは、目の前の患者を救おうと、淡々と頑張っている。
「異常な状況」という点では、同じである。
そういう中で、どのような行動をとるか、一人ひとりが問われている。
私は、目の前のできることに取り組み、頑張りたいと思う。
NHKの100分de名著のテキストも読んだ。
いかに自分の読みが浅いかを痛感した。
一方で、第4章に、カミュのノーベル章授賞式時のスピーチについて、
「世界の悲惨のなかで自分にできることを日々誠実におこなう
無名の人々への愛があふれています」と紹介されているが、
「そのとおり!」と共感した。
なお、6月12日(金)に、猫町倶楽部という読書会にオンラインで参加した。
私は、「淡々とやるべきことをやるリウに共感を覚える」と言ったのに対し、
ある方は「自分の想いも表に出しつつ頑張る、タルーに共感する」と。
話は、本書の内容を超え、コロナの現在の話に広がっていった。
とても有意義な時間だった。
ロナルド・H・コース『企業・市場・法』
企業・組織の成立理由を論じた「企業の本質」、
法制度の効果を論じた「社会的費用の問題」を含め、
名論文をまとめた本である。
歴史をコンパクトに説明する。
まずは利潤をもとめる冒険的私人によって建設された。
その後、様々な経緯を経て、
トリニティ・ハウスと呼ばれる公的機関は管理するに至る。
しかし、当論文執筆時点でも、財源は、
港湾を利用する船舶から徴収する利用料なのである!
コースの用語によれば「黒板経済学」が、
無意味であるか、よく理解できる。
現場から遊離しないよう、十分に気を付けたいと、改めて思った。
『感染症』井上栄著
本書のメインは、病原体の伝播経路、
特にSARS、新型インフルエンザ、エイズの特徴・感染予防を説くことにある。
補章で新型コロナが取り上げられている。
新型コロナ感染防止のためには、まだ分からないことは多いと留保しつつ、以下のとおり述べる。
・日本人の清潔行動文化を国民が意識し、かつそれを効率的に活用すること
(マスク、手洗い、箸、握手でなくお辞儀、風呂、家で靴を脱ぐ)
・特に、マスク、手洗い、閉鎖空間で大声を出す集会を避けることが重要
なぜなら、感染経路は口であり、
飛沫・接触(手)・空気媒介感染(塵埃)で感染する可能性があるから。
新型コロナは、日本・世界全体の問題であり、あらゆる層の人々が感染症について知見を高め、
それぞれの立場で活かしていくべきである。本書はその大きな一助となるだろう。